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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)14号 判決 1984年7月19日

控訴人 株式会社柳屋美広堂債権者委員会

被控訴人 日本橋税務署長

代理人 江藤正也 星川照 ほか二名

主文

原判決を取り消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨の判決を求める。

二  被控訴人

「本件控訴を棄却する。」との判決を求める。

第二当事者の主張

一  控訴人の請求の原因

1  控訴人は、昭和五六年一二月一日に倒産した訴外株式会社柳屋美広堂(以下「訴外会社」という。)の同月一六日開催の債権者集会に参加した訴外会社の債権者を構成員とし、訴外会社の残余財産を各構成員に公平に配分することを目的として右債権者集会において設立された「法人に非ざる社団」であつて、その機関として代表者たる委員長及び委員長他六名の債権者をもつて組織する代表者会議を置いており、控訴人代表者委員長永江益雄は、右債権者集会において控訴人の委員長に就任して現在に至つているものである。

2  被控訴人は、昭和五七年二月二六日、訴外会社に対する滞納処分として、控訴人代理人小名雄一郎名義の訴外株式会社三菱銀行(虎の門支店扱い)に対する普通預金債権(口座番号四五五九四六五)一二七万九、四七三円(以下「本件預金債権」という。)を差し押えた(この差押処分を以下「本件差押処分」という。)。

3  しかしながら、控訴人は、昭和五六年一二月一六日、訴外会社から同社が有する一切の売掛代金債権一、八六五万九、六三三円を譲り受け、その回収の便宜のために前記普通預金口座を開設し、回収金を右口座に預金していたものであつて、本件預金債権は、控訴人に帰属するものである。

4  したがつて、本件預金債権が訴外会社に帰属するものとしてなされた本件差押処分は無効であるから、その無効確認を求める。

二  被控訴人の主張

控訴人は、訴外会社の債務を整理するための一機関に過ぎず、法人に非ざる社団としての要件を具備していないから、当事者能力を持たない。したがつて、本件訴えは、不適法である。

第三証拠関係 <略>

理由

一  民事訴訟法第四六条の定める「法人ニ非サル社団」には、団体としての組織を備え、構成員の変更があつても団体そのものが同一性をもつて存続し、その団体の代表、意思決定の方法及び機関、業務の執行、財産の管理その他団体として必要な事項に関する定めが確定しているなどによりいわゆる権利能力なき社団に該当するものと認められる団体のほか、民法上の組合契約によつて結成された団体であつても、組合員及び組合財産が特定の共同目的の遂行のために強く結合され、組合員の組合財産に対する共有の持分権又は分割請求権も否定されて組合財産が総組合員に総有的に帰属するものと解されるものも含まれるのであつて、その代表者の定めがある場合には、同条の規定により当事者能力を有するものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三七年一二月一八日第三小法廷判決・民集第一六巻第一二号二四二二頁の趣旨とするところも、結局これと同旨に帰すると解される。)。蓋し、組合契約によつて結成された団体において、組合財産の帰属又は個々の組合員の組合財産に対する権利について民法の定めと異なる定めをすることはもとより可能であり、そこで組合員の組合財産に対する共有の持分権が否定されるなど組合財産が総組合員に総有的に帰属するものとされ、かつ、代表者の定めがある場合においては、右の団体にその名において訴え又は訴えられる資格を認めて代表者に訴訟を追行させても、訴訟の結果が構成員各自の権利を害したり実体上の権利関係と齟齬を来たすようなこともなく、そのようにすることがかえつて実際上の必要性にも適合する所以であるからである。

二  これを本件についてみるに、<証拠略>を総合すると、訴外会社は昭和五六年一二月一日約二億八、〇〇〇万円の負債を残して倒産し、その招集により債権者約一〇〇名のうち五十数名が同月一六日に参集して債権者の集会を開催したこと、右集会に参集した債権者らは、その席上、訴外会社の約一、九〇〇万円の売掛代金債権(債務者約一七〇名)の保全及び回収並びに回収金の債権者への債権額に応じた公平な配分を目的とし、右集会に参集した訴外会社の債権者及びその後に債権の届け出をした債権者がその訴外会社に対する債権を出資してその構成員となり、「株式会社柳屋美広堂債権者委員会」(控訴人)を設立することを全員一致で決議し、その代表者委員長として大口債権者の一人の神永マツチ株式会社の取締役の永江益雄を選任し、その事務所を右神永マツチ株式会社内に置くことにしたほか、委員長他六名の債権者を委員に選任して以後の債権者委員会の具体的な運営方法の決定をそれに委ねたこと、控訴人は、右売掛代金債権の回収方法として、訴外会社から一切の売掛代金債権の譲渡を受けたこととして、訴外会社をしてその旨を各債務者に通知させ、控訴人自身の名において売掛代金債権の回収に当たることとしたこと、しかして、控訴人は、昭和五七年三月頃までに約九〇〇万円の訴外会社の売掛代金債権を回収し、債権者委員会の諸経費及び訴外会社の従業員への給与の支払い等に要した額を控除した残額約五〇〇万円を構成員たる債権者に按分して配当し、昭和五九年三月には残務の整理を残して概ね業務を終了したことの各事実を認めることができる。

三  右事実によれば、控訴人は、先にみたようないわゆる権利能力なき社団に該当すると言うことはできないとしても、控訴人の構成員たる訴外会社の債権者は、専らその債権の公平、確実な回収を図るという特定の共同目的を遂行するために、それぞれが有する債権を出資し、訴外会社からの譲受債権の保全及び回収の業務を行ない、その回収金を配当として分配を受けるべく団体を結成したものであつて、控訴人は民法上の組合契約によつて結成された団体ということができる。そして、控訴人は、多数の債務者から売掛代金債権を回収しこれを分配するまで存続することを予定したある程度継続的な存在であつて、その代表者及び事務所が定められ、取引社会において個々の組合員とは別個の一つの組織体としての実質を持つものであり、専ら訴外会社から譲り受けた売掛代金債権を回収してこれを構成員の債権額に応じて公平に配分するということのみを共同の目的とするものであつて、それ以外の事業を行なうものではなく、組合財産といつても、結局、実質的には訴外会社から譲り受けた売掛代金債権の回収金のみであつて、それは組合の解散にあたつて残余財産として組合員の各債権額に応じて分配することが当初から予定されているのであるから、控訴人の構成員である各組合員は組合財産に対する共有の持分権や分割請求権を有しないものということができ、これに先に認定したような控訴人の組織及び活動の実態を総合すると、控訴人の組合財産は、総組合員に総有的に帰属しているものと解するのが相当である。

したがつて、控訴人は、民事訴訟法第四六条所定の「法人ニ非サル社団」で代表者の定めのあるものとして、訴訟当事者能力を有するものというべきである。

四  よつて、これと異なる見解に立つて本件訴えを不適法として却下した原判決を取り消し、本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 香川保一 越山安久 村上敬一)

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